世に棲む音楽第4回「音楽におけるタテとヨコ – ヨコ軸(時間)編」:テーマについて

楽曲のテンポが四分音符=60ならば一拍の長さは1秒、八分音符の長さは0.5秒……そうやって時間を刻んでいる音楽の「ヨコ軸」をぎゅーっとピンチで拡大し、ミリ秒単位にしたら何が現れるか?逆に、俯瞰して百年単位にしたら何が見えるか……?

僕は普段から「時間もの」が好きで、ドイツの教育動画制作集団 Kurzgesagt が作っている、一秒から始まって宇宙の誕生から消滅までを一本の軸の伸び縮みで描いたヴィデオとか、地球の歴史を正確な比率で1時間に置き換えたものとか(つまり、1時間のうちのほとんどは画面に変化がなく、人類を見るのは59分待った後のほんの一瞬)、疲れて何もしたくない時など、繰り返し観ては涙している(まじで)。

また、今回のイベントに対して「ぎゅーっと」という表現が何度も頭に浮かんだが、これは高野文子さんのマンガ「奥村さんのお茄子」の影響だと後から思い出した。今とはまったく関係のないある日ある時の一瞬にも、今と同じだけの時間が流れているという、今回のトークのシメのようなテーマは、思えばこのマンガから得ているものだと思う。

そんな「時間好き」と「世に棲む音楽」の接点は……というと、下の図のようなことになるかもしれない。

ヨコ軸に時間をとり、タテ軸にさまざまな音楽要素 – 高さとか、強さとか、言葉の音とか – をとり、すべての音楽はこのグラフ上でおこるできごとなのだと考えてみる。心が踊ったり、悲しくなったり、つまらなかったり、またミュージシャンとして、ココをもうひとつ良くしてみようと苦労する時の「ココ」など、すべてはこのグラフ上にプロットされた点の集まりにすぎないということだ。例えば心が踊る曲の一部分をピンチで拡大してゆく。しかしどこにも「心が踊る」とラベルされた点は見つからない。それもそのはずで、音そのものには、充分に拡大してしまえば、意味はないからだ。

なぜこの考えが頭に浮かんだかというと、我々(特にミュージシャン)は、「いい音楽はいい音」に宿っていると、とかく思いがちだから。そうではない。音楽を心躍ったり、悲しかったり……等々にし、意味をもたせるのは音そのものではなく、それを組み合わせ、形にする、人のはたらきだと僕は思っている。もちろんドラムの出だしの一音が「いいっすねー」というのはある。でもそれをその「音」で終わらせるか、それをタテとヨコの中に置いてみ(ようと努力す)るかとでは、次に生まれてくる音が違ってくるのではないかというのが、僕の音楽に対する考え方だ。

世の中にはそんな風に「音」からいちど意味をはぎ取った上で改めて考えようとしてきた人がいて、実験音楽とか電子音楽というのはそのための分野だと容易に想像がつくけど、それに限らず、ポップ音楽のアーティスト・演奏者・エンジニア達も、多かれ少なかれそういう仕事をしていると思う。問題は、ついつい「タテとヨコ」のことなど忘れて、作る側も評価する側も、精神論や技術論で話を終わらせがちなことで、意外とそんなこと気にしないお客さんの方が、正しく「タテとヨコ」を把握しているなどということも、ある。


今回のトークでは、まず前提として、いったい音楽を「タテとヨコ」で把握するってどういうことか、それと対になるやり方である「一本道」な把握法(今僕が勝手に命名した)との比較で考えてみます。
その上で、今回のテーマである「ヨコ軸編」に進み、通常の一拍、だいたい1秒 (1,000ミリ秒) から0.数秒 (数百ミリ秒) といった軸を次第にぎゅーっと拡大してみて、通常の演奏や音作りにはどのくらいの短さの時間まで関与しているのか、試してみます。我々が普段そこまでは関係ないと思っている意外な短さの時間が、その音楽にかなり影響しているということを表せたらと思っています。

次に時間軸を一気に俯瞰方向に(縮尺的には小さく)戻して、数十年単位にしてみます。ポピュラー音楽が成立したと言われている19世紀の後半から2026年の現在まで約150年。この幅の時間軸にいろいろな音楽をプロットしてみます。よく知っているようだけど意外な発見があるかもしれません。

トークゲストには Suzu Toyama さんをお迎えします。昨夏のイベントでご一緒した時、彼女の曲には良い時間、そして「意外な」時間が流れているな、と感じました。Suzu さんにはご自分の曲作りや歌をうたう中でどんなときに「時間」を感じるか、どんな音楽に「時間」を感じるか、聞いてみたいです。僕は今から99年前(初めは百年前と思ったのだけど、実は、1926年と1927年の間にずいぶん音楽は変わっていた)の音楽をかけてみます。

今回はいつものエマソロ楽器セットは持ってきません。代わりにモジュラーシンセを持ってきて、普段のエマソロではやらないことをちょっとだけ観ていただこうとも思っています。
いつもの「世に棲む」よりも少しだけエクスペリメンタルな回にして、冬の間に音楽の代謝も上げていきましょう!お楽しみに。

Kurzgesagt
https://www.youtube.com/channel/UCsXVk37bltHxD1rDPwtNM8Q

高野文子『棒がいっぽん』(「奥村さんのお茄子」を収録)
https://magazineworld.jp/books/paper/613/

2026年1月15日(木)世に棲む音楽 第4回「音楽におけるタテとヨコ – ヨコ軸(時間)編」
ご予約(Peatix イベントページ)
https://yonisumu0115.peatix.com/