世に棲む音楽第7回「知らない昨日 – 1962/1987」: テーマについて

国立映画アーカイブが公開している「フィルムは記録する」というシリーズが好きで、よく観ています。主に20世紀前半の、劇映画ではなくて教育や記録のために撮られたフィルムを集めたもので、制作した人はおそらく、百年近く後にこんな形で観られることなどまったく意図していなかったと思われます。ウェブサイトでそれらの映像を観ていると不意に、「あ、ここに写っている人たちも、犬や猫も、ほぼみんな、今この世にはいないんだ」と、悲しいような、あきらめのような、不思議な気持ちにおそわれる時があります。おかしなもので、同じくらい古いフィルムでも作品として制作された映画を観る場合には、そんな思いは湧きません。それは恐らく作った人の「意図」の違いによるのでしょうが、よく分かりません。

ポップ音楽というものは「作品」ではあるんですが、少しだけ「フイルムは記録する」に収められた映像に近い部分があるかもしれません。そんなポップ音楽を対象にいろんな角度で考えてみようというのが「世に棲む音楽」なのですが、考える時にいちばん大事なのはやはり歴史です。とはいえ「世に棲む音楽」では、学問のように編年体で歴史をとりあげることはありません。時間を追って音楽スタイルやジャンルの変化を教えてくれる文章やイベントは他にもっと優れたものが沢山ありますし、音は覚えても曲名や人名といった固有名詞がまったく覚えられない僕がそれを行うのはもともと無理です。それだけでなく、編年体の歴史は、既に出来上がったものを分析したり評価するのには絶対に必要で大事なものではありますが、これから何か新しいものを作り出そうとする場合にはそれだけでは不十分であって、原動力となる「何か」と一緒になってはじめて力を発揮するものだといつも感じているからです。過去を扱うのであれば、編年体の歴史と共に、ある時点に生きていた人がその時どんな現実を生き、どんな将来をイメージして音楽を聴いたり作っていたかを想像することに、僕は関心があります。

そんな背景から、今回のテーマは「知らない昨日 – 1962/1987」としました。トークゲストはこの企画ではじめて2度目の登場となる方、VIDEOTAPEMUSICさんです。もちろん彼の音楽や映像作り、そして彼が行っているワークショップ等も、この関心にとても近いものだと思います。なので今回は、僕とVTMくんのそれぞれが、過去のある時点に行ったと仮定して、そこで聴いている音楽、そのメディア、もしその時に自分が今のような仕事をしていたら(そんな仕事があるとして)何に影響を受けてどんな生活をしているだろうか、などについて想像し「報告」しよう、という試みをします。ルールは:

行く年は自分の知らない、でもまったく関係ないわけでもない辺りにする。自分の記憶があるかないか位の年。ただし厳密でなく、想像上の「その年」で良い
とはいえ編年体の歴史は自分の知っている限りで尊重し活用する。ただし、その時点から後に起こった歴史(音楽含む)については、わかり得ないものとする です。

タイトルを「1962/1987」としたのは、僕とVTMくんにとってこのルールに合うのがその辺だろうということですが、実はもうひとつ理由があります。これらの時代はいわゆる日本の音楽シーンにおいて、グルーヴの幅広さという点で2つのピークをなす時期だったのではないかと僕は思っているからです。「ラテン」音楽の影響の下、スウィングするジャズやポップスと「タテ」なリズムがごちゃまぜになっていた(世に棲む音楽第5回)1950年代後半〜1960年代初頭。パンクとニューウエーブの影響の下、レゲエやアフロポップが「ワールドミュージック」として整理されることになる直前の1980年代中盤。当時の音楽シーンには、雰囲気だけだったかも知れないとはいえ、今よりは世界の文化に対してよりオープンな視点があったのではないか、というのが僕の仮説です。そんな「昨日」を起点としてその後の音楽を想像した時、ずいぶん「内向き」に思える現在の音楽のありようとは違った世界線を設定することも可能なのではないか?そんな話まで進められたら面白いかもしれません。

イベントでは参加者のみなさんの「知らない昨日」も聞いてみたいです!年号だけでもOKです。当日のCommentScreenで教えてください。特典質問券を持っている方はそれを使ってくれてもいいです。1960年代や80年代を知らない方にもぜひ来ていただきたいです!


イベント詳細・ご予約Peatixページ
https://yonisumu0520.peatix.com/