「世に棲む音楽」第2回のテーマは「ロッキンとロマンス」です。第1回のテーマがダブという硬派でソリッドなものだったので、今回はそれとは逆に、音楽における「ひ弱」で「ふにゃっとした」ものについて考えてみたいです。「ロック」ではなくて「ロッキン」、「ロマン」というより「ロマンス」という感じです。おそらく「世に棲む音楽」の中でも異色のテーマになると思います。
この言葉は、USのバンド、ジョナサン・リッチマン&ザ・モダン・ラヴァーズのアルバムタイトル “Rockin’ And Romance” から拝借しました。僕がジョナサン・リッチマンを知ったのは1980年代。ビシッとアレンジされたポップロックや、機材を駆使した「新しい」サウンドを競っていた時代に、それとは真逆の、シンプルですきまだらけのサウンドと「歌い上げ系」とは真逆のヴォーカル、そしてその時代からしても「古い」ソウルやポップソングへのあこがれを表した音楽でシーンに登場しました。僕の印象では、決して主流になることはなかったけど、轟音のパンクロックをやっているような個性的な人ががっちりと心奪われる、そんな存在だった気がします。
しかし今思うと、彼のスカスカの音楽の虜になるのには、ちゃんと理由があったような気がします。強い音で埋まっていて、前へ前へと押してくる、そんなロックのマッチョ性には僕はずっとついていけない感じを持っていたのですが、ジョナサン・リッチマンの音楽は、それとは違うロックの行き方があるということを見せてくれました。一見「古い」スタイルを取ることは、時の流れを行ったり来たりできる音楽の力を信頼しているからでもあります。「弱さ」を含んだ彼の表現からは、どんな音楽スタイルにおいても、そのありようを決めるのはジャンルの真ん中にいる人ではなく、むしろその「周辺部」にいるアーティストの存在ではないかということを教えられます。
さらにいうと、最近それについて考えるのは、強い曲からは強い気持ちを受け取らなければならない、ふんわりした曲はふんわりした気持ちで聴かなければならないというように、あたかも楽曲のパッケージの表面がそのまま中身であるように音楽を受け取ってしまうことが、ひょっとして以前よりも多くなっているのではないか?ということが気になっているからです。本当なら、強い音楽にも弱い部分があり、スカスカの音楽にも濃い気持ちが込められていて、それが曲全体の「味」を決めているはずなのです。良い音楽には必ず含まれている、そんな部分を「ロッキンとロマンス」と呼んで掘り下げてみようといのが、今回の「世に棲む音楽」でやってみたいことです。
ジョナサン・リッチマンを取り上げるのならば、松永良平さんをお呼びしないわけにはいきません。著書「ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック」にもある通り、彼との出会いをスタート地点のひとつとして、文章をはじめとする様々なお仕事を展開されてきた松永さんからは、僕があまり知識のないUSの音楽シーンにおける「ロッキンとロマンス」について、そしてそれって実はUSの音楽においてかなり重要な要素なのではないかということについて、良いお話が聞けることでしょう。対する僕からは、演奏上のほんのわずかな変化によって「ロック」な感じが「ロッキン」な感じに変わることを実演したり、自分のレパートリーであるスカや古いジャズから、そんなテイストを持つ曲を演奏して楽しんでいただこうと思ってます。
「世に棲む音楽」の中では、さまざまな音楽ファンにアピールする度合いが特に高い回になるのではと思います。どうぞご参加ください。
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https://yonisumu1118.peatix.com/

