トークイヴェントパンフレット原稿 盛岡・福生

2025年春に行ったトークイヴェントにおいて、会場限定で配布したパンフレットの原稿を載せておきます。2月に盛岡 BOOKNERD で行った時に書いたものを4月の福生 CHA CHA CHA BOOKS に向けて直したものなので、最後の方は福生のイヴェントの紹介になっています。


こんにちは、エマーソン北村です。
今日は、僕が音楽を作る上で影響を受け、考えてきた「グルーヴ」ということについて、ミュージシャンの立場から話をしてみたいと思います。

僕がバンドをやろうと思った1980年代、主流の音楽では、派手なドラムが「ンッダン、ンッダン」とビートを強調する中で、全員が均等な音符の「グリッド」に沿って演奏することが良しとされていました(この「グリッドの呪縛」は、良くも悪くもその後の僕の音楽に影響を与えます)。そんな音楽の作られ方についていけない気持ちを持っていた僕は、UK のパンクやニューウェーヴの、特にそのリズムが好きになりました。そこから遡る形で、レゲエなどカリブ海・西インド諸島の音楽やアフロポップ、「ラテン」音楽のグルーヴに惹かれていったのです。

それからの年月、いろんなやり方で音楽を「形にする」仕事を続けてきた僕ですが、人と音楽要素それぞれの「関係」から生まれてくるグルーヴを単なる音楽ジャンルとして利用するのでなく、聴く人の気持ちを動かす作品やライヴに活かすにはどうしたらいいか、ずっと課題にしてきました。その答えは言葉より音楽そのもので示すべきですが、たまには演奏を離れてみなさんと話してみることで、自分自身も「グルーヴ」というものをもっと良く理解できるかも、と考えてこのトークを行うことにしました。

例えばこんなトピックから話を始めたいと思っています。

・グルーヴは、ドラムやパーカッションだけが作るものではない。

・グルーヴは「揺れ」だが「ずれ」ではない。

・「弱い部分」「欠けてる部分」がグルーヴを作る。

・サンプルのループと演奏のループ、その和と差……など

UK ではこのところ、1980年代の諸都市で起こったダンスホールをはじめとするジャマイカやカリブ海・西インド諸島をルーツとする音楽ムーヴメントをきちんととらえ直し、記録しようとする動きが起こっています。それは、第二次大戦後に UK へ移り住み労働力としてイギリス社会を支えてきた「ウィンドラッシュ世代」とその子・孫にあたる人々が、自分たちの暮らしを危うくする動きに対抗して声を上げていることともリンクしています。僕は、僕が力をもらってきた「ルーツミュージック」を「自然」や「民族」や「血統」によって生まれたものだとは思っていません。さまざまな歴史の結果として都市に住んでいる多様な文化を持つ人びとが、よりよい生活と心持ちのために自分自身の表現をし続けること、それが「街のグルーヴ」を生み出しているのではないかと思っています。そんなことに考えを巡らせてくれるレコードや本も紹介したいです。

トークの後半では今回のイヴェントを主催してくれた VIDEOTAPEMUSIC くんを加えて、互いの「街のグルーヴ」について話せたらと思っています。そして一番大事な!みなさんからの質問コーナーも設けます。技術的なことから音楽ラヴァーな話題、そして、今回僕が(何と)初めて訪れる福生についてなど、何でも結構です!みなさんにとっても僕にとっても印象に残る一日になったら嬉しいです。

(エマーソン北村)